古くから日本各地でつくられてきた郷土玩具。
その土地の風土や暮らしの中から生まれ、子どもたちがすこやかに成長しますようにと、地域にある身近なもので、つくられてきました。
「玩具工房」は、現代風の解釈とハイカラな装いでつくられる陶器の郷土玩具です。つくっているのは、愛知県瀬戸市にある工房「瀬戸陶芸社」。こちらでは職人がひとつずつ手作りしています。
今回、プロデューサーの水野雄介さんと妻の水野真里さんに、どんな想いで「玩具工房」を立ち上げ、どのようなものづくりをされているのか。現場をご案内いただき、お伺いしました。
瀬戸陶芸社のはじまり
写真:「瀬戸陶芸社」の水野真里さんと、夫で「玩具工房」プロデューサーの水野雄介さん。
「瀬戸陶芸社」のはじまりは、1951年。水野真里さんの祖父が国内需要に向けた陶製人形の製陶所をはじめたことから。創業当初は、京都・伏見人形の依頼で忙しく、毎週のように京都便が出ていたといいます。
そのため、今でも神社からの依頼は多く、干支や雛人形など、日本の四季にまつわる陶製人形のエキスパートとして、活躍されています。
「兎と亀」(1,320円税込)。 昔話『うさぎとかめ』をモチーフに。今のご時世、競争よりも調和と協力しましょ。
「玩具工房をはじめようと思った理由は、昔からの日本の風習をきちんとした形で伝えたかったから。けれども、当時のモチーフのままだと振り向いてもらえない。そこで、元あるもののカラーをリメイクしたり、ちょっとリデザインして、オリジナルブランドの郷土玩具として発表しました。核家族で生きていけば、古い風習を知らない人もいっぱいいると思うので、改めてもう一度再定義していきたいです」
と語るのは、真里さんの夫であり、「玩具工房」プロデューサーの水野雄介さん。
普段は、250年以上続く窯元「瀬戸本業窯」八代目半次郎後継として、瀬戸の土、自然の釉薬を使い、ろくろを使った手仕事のものづくりをされています。今回、窯元同士のご夫婦であることで、奇跡のコラボが実現。プロデューサーとしての才覚を発揮し、新たなものづくりを発揮されていらっしゃいます。
「瀬戸狛犬(阿吽)」(各1,650円税込)。
「瀬戸職人だるま」(1,150円税込)と「瀬戸本業窯」の器。これぞ、ご夫婦コラボ!
輸出向けにつくられてきた“瀬戸ノベルティ”
さて、ここで疑問がわく方もいるかもしれません。
瀬戸って、人形をつくっているんですか? そんなふうに思われる方も多いかもしれませんが、戦後の瀬戸のものづくりを支える一大産業でした。
明治時代には、大量生産に向けて石膏型製法の研究が進められ、陶彫技術も確立。大正時代には、第一次世界大戦時にドイツ製に代わって、瀬戸製ビスク人形がヒットします。
アメリカで人気を博していたのですが、戦争の影響で生産国であるドイツからの輸入が途絶え、代わりに白羽の矢が立ったのが瀬戸だったのです。
瀬戸蔵ミュージアム企画展『瀬戸ノベルティへの展開』より
瀬戸でつくられたものは“セトノベルティ”と呼ばれ、精巧な造形や繊細な絵付などが海外で高い評価を得ていました。1960年代には市内で300社を超えるノベルティ関連の会社があったほど。
その後、1985年に「プラザ合意」が締結されると、1ドル360円だったものが70円台まで円高が進み、多くの事業者が別の事業へ。続ける工房も、安く生産できる海外へと拠点を移していったのです。
ほとんどが輸出向けだったため、国内にその存在を知られず、静かにその姿を消していったのですが、「瀬戸陶芸社」では国内需要に合わせた生産に絞っていたため、生き抜いてこられたのです。
「玩具工房」郷土玩具が生まれるまで
ここからは、瀬戸市で培われてきた“セトノベルティ”の技術を活かしたものづくりをご紹介していきます。
最初に水野雄介さんがどんなものをつくりたいのかコンセプトなどを考えます。
それを受け、「玩具工房」デザイナーの木伏明日香さんが、デザイン画に落とし込んでいきます。
こちらが原画です。専属の原型師がこの平面の原画をもとに原型をつくります。
腕のよい原型師さんの手にかかれば、1枚の絵を見るだけで、みるみるうちに粘土で立体の招き猫の姿が現れます。やきものは焼成すると、縮むため、そのパーセンテージの計算もしながらサイズをつくる緻密な作業です。
※原型づくり参考動画(コネル陶芸大学)
原型が出来上がると、次は量産に向けて、専属で提携している市内の型職人に石膏型をつくってもらいます。
こちらは出来上がった石膏型です。「瀬戸陶芸社」では、この石膏型に“泥漿(でいしょう)”と呼ばれる泥を注入し、やきものを成形する「鋳込み成形」という方法で、ものづくりをしています。
泥漿を注入している様子。
ここに注入しているのは“白雲”と呼ばれる粘土です。昭和6(1931)年に旧国立陶磁器試験場で研究開発され、輸出用のノベルティ製品をつくるために誕生したものです。
石膏は水分を吸う性質があり、外側の泥漿から固まります。乾いた泥漿が必要な厚みになったら、型を逆さまにして、余分な泥漿をガバッと捨てます。そのことから“ガバ鋳込み”とも呼ばれます。
20年以上のベテラン職人によると、「土は生きてるからね!」と製品の形状や季節、天候などによって、土を流し込む速度、時間なども考えて注入するそうです。大きい型のもので、30分程度乾燥させます。
固まってきたら、型を外します。
招き猫の形がでてきました!
型から出てきたときは、型と型の間に、バリと呼ばれる線のようなものができてしまうため、これをなめらかにします。
型から外した時に残る“バリ”を削る。
濡れふきんで、さらになめらかに仕上げる。
鋳込み現場のすぐ後ろで、作業が行われています。
同じフロアにある電気窯で、およそ1,030度で焼成します。
焼くと、真っ白になります。この生地に、陶器用絵の具で絵付けをしていきます。
下描きはなく、見本を見ながら筆で一気に塗っていきます。
できました〜。
工房を見学させていただくと、どの現場の職人さんたちの丁寧に、すばやく。
それがとても伝わってきました。
これだけすべての工程が手作業で、この価格帯を実現していることにすごさを感じ、恐れ入ってしまうほどでした。
ものづくりの過程を知る工房見学はおもしろい。感謝です。