産業廃棄物にしない。土のリサイクルを考える。【土の声を聴く。「双寿園」編コラム】

産業廃棄物にしない。土のリサイクルを考える。【土の声を聴く。「双寿園」編コラム】

9/28(土)から10/20(日)に、無印良品 名古屋名鉄百貨店で開催中の「土の声を聴く 〜from瀬戸〜」。展示ではおさまり切らなかった、深掘りコラムをお届けします。

今回ご紹介するのは、1953年創業の製陶所「双寿園」。毎月2万個以上のうつわをつくっています。そのなかで、どうしても瀬戸でいうところの「ペケ品」、つまりは廃棄されてしまう廃陶器が生まれてしまいます。この子たちは埋められ、やきものの墓場で眠っているのです。

土は天然資源であり、使えば、なくなっていきます。
とりわけ、「蛙目」と呼ばれる土は、世界でもこの地域にしか採れない、やきもののために生まれてきたような、非常に貴重な土です
※蛙目については、こちらに詳しく書きましたので、ご参考にいただけるとうれしいです! 

そんななか、代表の石川圭一さんは、「これらをどうにかできないか?」と、さまざまな原料屋を訪ね、リサイクルできることを知ったといいます。一体、どんな取り組みをされているのか、お届けします。

1953年から続く、染付の製陶所「双寿園」

「双寿園」は、瀬戸市内の町中にあります。中心市街地にある「せと末広町商店街」を抜けて、歩いて数分で工房が現れます。

訪れると、職人たちがいつも手際よく、きびきびと働かれています。
工房内では、ローラーマシーンによる成形が行われています。この機械では1度に2種類の形状を作ることができ、1日に1種類で約500個から1000個成形することができます。

粘土の塊を置くと、数秒で完成します。

こちらは、昔ながらの手描きによる絵付けをされている様子。大ベテラン職人の石川捷子(かつこ)さん。すごい速度で回転するなか、さっさっさっと絵付けされていきます。

こちらは、レトロなシルクスクリーン印刷。メッシュ状の版に穴を作り、穴の部分にだけインクを落として印刷するというとてもシンプルな印刷方法です。

瀬戸市内でいえば、かなり数を作っていらっしゃる製陶所ですが、機械と手しごとのあいのこで温かみを感じる仕上がりです。

大手飲食店さんからOEMのお仕事が多いのですが、オリジナルの食器ブランドとして「Modern Series」も発売されています。

創業当初から、とくにお茶碗をよく作ってきたということで、持ちやすさが極まっており、持った時の「これ、これ」感が、とても強いです。
ヒトツチでも、こちらをお取り扱いしています。

「双寿園」の土のこと

創業以来、土は“石もの”と呼ばれる「磁器土」を使用されています。それに加えて、割れにくい「強化磁器」。

どちらも土屋から板状で仕入れ、真空土練機で棒状にして使われています。

ちょっと詳しく原料のお話すると、この粘土の中には、蛙目、白土、長石、カオリン、アルミナがブレンドされています。

これらが何かというと、蛙目は蛙目の原土から粘土分を抽出したもの。白土は、雑味があって、粒度が荒い等級の蛙目粘土。長石は、地球上に広く分布、大量に存在する鉱物で、高温で焼く時にとかす役割を果たしてくれます。

カオリンはカオリナイトという鉱物を主成分とする粘土。日本ではほとんど採れない原料です。中国最大の陶磁器の産地である景徳鎮付近の高嶺(Kaoling)という産地から採掘される粘土が、古くから使われてきたことから、その名がついたといわれています。耐火土がかなり高く、鉄分が少ないので、白く焼き上がることが大きな特徴です。

アルミナは代表的なセラミック材料です。
強化磁器の粘土の場合は、アルミナが多く入り、強度が増しているといいます。

これらがブレンドされた粘土に、機械で成形するときに出る“くで”と呼ばれる切れ端も加えて、土練機で練って、ローラーマシーンで使いやすい硬さに調整します。粘土は、焼く前であれば、再び使えるため、できる限り粘土を再利用されていることが伝わってきます。


蛙目粘土がなくなるんじゃないか?

 「僕、家のことやりはじめて15年なんですけど、入った当時から、蛙目粘土がもうなくなるんじゃないかと言われていて。で、もう15年経ってる! と気がついて。そういう話を澤田さんとしとって、憶測でいってもしょうがないから、現場を見に言ったり、聞きに行くようになりました。

リサーチを進めるなかで、何もしないと今の鉱山は10年、15年で終わるだろう。ただ、新たな鉱山開発を進めていたり、掘れないところを掘れるようにする。そういったことで措置を測っているから、今も続けられているということがわかりました」

こうした現状があるなか、日々、向き合っていたのが、毎年、捨ててしまっていた6トンほどの廃陶器たちでした。

土も分別すれば、リサイクルできる

「以前は、捨てざるを得ないものだと思ってたんです。どうしようもないもんだと。でも、岐阜県の瑞浪市にある土屋さんに聞いたら、『いやいや、粉砕すれば使えんこともないよ。ただし、仕分けが必要だよ』と」

その話を聞き、考えを改めることになった。
そして、石川さんはやれることをコツコツやってみようかな、と今まで一緒くたに捨てていた廃陶器を分別するようになった。

本焼き後の製品(釉薬をかけて本焼成したもの)、素焼き素地、えんごろ(さや)に分け、これなら土屋に持って行けば、また粘土になるのだという。

「落とし込んで考えると、分別するとリサイクルができるということ。家庭ごみと一緒なんだと思って。土が採れんくなっていると言われるなかで、やった方が絶対、いいことじゃないですか。

一緒くたに捨てるのは楽だけど、鉱山に埋めるだけ。今後、もしも原料が採れなくなって、海外からの輸入に頼るようになったら、為替のリスクもある。それなら、自分のところで出たものだけでも、リサイクルできるものはリサイクルした方が、健全な感じがしますよね」

現在は、さらに進んで、廃陶器を集めて持っていくだけではなく、リサイクルの粘土を使った商品開発にも挑戦されています。

「白い廃陶器を白いものにしようと思うと、余分に蛙目が必要になっちゃうんです。貴重な蛙目をたくさん使うなら、それはあまりいいリサイクルじゃない気がして。でも、黒い粘土や黄色い粘土なら、蛙目を余分に使わなくて、できることを知り、商品開発を進めています」

さらに、そのリサイクル粘土を使って、お茶碗などのオリジナル商品もつくるプロジェクトも動いています。

使用する型も、できるだけ再利用のものを予定しているといいます。

「うちは型で器をつくるんだけど、1個の型で大体100回ぐらいしかとれない。 理由としては、1回目と100回目で、1ミリ、2ミリと変わってくる。業務用だと、それだけでなんか小さい、大きいとなってしまって。それで、茶碗の場合で月に2回ぐらい型を変えるかな。蓋ものだと、蓋が締まりづらくなってしまったりもするんです」

月に2万個以上製造しているため、次々に型が溜まっていってしまいます。これも同じく産業廃棄物になってしまっていたため、頭を悩ませていました。けれども、型を持ってきてくれる運送会社のスタッフに聞いたところ、型は型だけで揃えておけば、リサイクルとして引き取ってくれるよ、と知ることができたのです。

「それも、前は知らんかった。自分で、色々、人に聞いたり、調べてみてやっとわかったんです。今回、進めているリサイクル粘土を使った商品は、使い終わった型をもう1回使う予定です」

ローラーマシーンのように全自動ではなく、もう少し人の手を使うような“水ごて”という機械を導入して、製造する予定だといいます。商品化すれば、「双寿園」の歴史ではじめての「白」じゃない器が誕生します。

「白い器の価値を上げたい」


「白い器を作っているものからすると、白い器の価値を上げたい。リサイクル粘土は、白じゃなくていい。その価値観を提示できたらいいですね。蛙目粘土を後世につなげていこうと思うと、いろいろやっていかないと」

器が、当たり前のように白であること。
それは本当に当たり前なのでしょうか?
そして、大切な粘土が産業廃棄物にならないためには、どうしたらよいのか?
すこし考えるきっかけになったら嬉しいです。

ブログに戻る