2024年9/28(土)から10/20(日)に、無印良品 名古屋名鉄百貨店で開催された「土の声を聴く from瀬戸」。展示ではおさまり切らなかった、深掘りコラムをお届けします。
今回ご紹介するのは、「美山陶房」です。明治初頭に開窯して以来、織部の割烹食器を中心に作りながら、四代・寺田康雄先生と五代・寺田鉄平さんが陶芸家として活躍されています。
康雄先生は薪窯で焼成時の土の変化に魅了され、半世紀にもわたる陶芸家生活のなかで、国内外で50基以上もの窯を作り上げ、窯の中で変化する土と向き合ってきました。
陶芸は土と炎の芸術といわれます。陶芸家目線の「土と焼成」を切り口に、お話をお伺いしました。
納得のいく土と窯を求めて
レンガを積み上げてつくった、自家製の薪窯の前にて。寺田康雄先生と鉄平さん。
「美山陶房」は、瀬戸市内でも古くからやきもの関係者が多く集まる、赤津地区に工房があります。小高い山をのぼっていくと、大きな門があり、広い敷地内に工房、そして、手作りの薪窯が現れます。
2020年に窯づくりの集大成として発売した『陶芸窯 基礎知識と築窯記録』(里文出版)。様々な築窯の記録と体験エッセイが掲載され、とても興味深い。
四代・康雄先生は半世紀にもわたる陶芸家生活のなかで、国内外で50基以上もの窯を作り上げてきた、陶芸家であり、築窯の生き字引のような存在です。
「50歳になるちょっと前ぐらいから、薪窯をつくっとるね。薪窯で焼くと、土の表情がめちゃくちゃ変わるわけ。電気窯やガス窯とはまるで違う。それで、興味を持ち出した。それまでは窯元としてどんどんものを作らないといけないということで、興味がなかったけど、ちょっと時間的な余裕ができた。
そこでいろんな種類の窯をどんどん作り出したら、それによっての土の変化が大きくて、 あちこちから土を掘り起こして、色々テストしました」
10年間ほどずっと材料の研究をしていたという。瀬戸中の土をはじめ、日本各地の土を掘り起こし、粉砕してふるった土、水洗いしてからふるいを通した土、水簸した土……様々な状態の土を焼いた。
「今思うと、よう生活ができとったよね(笑)」
その頃には出版活動にも力を入れ、1998年発行の『土と成形の基本』(双葉社)で原土から成形までみっちり紹介するなど、ひたすら土を追いかけ続ける中で、発見はたくさんあったといいます。
みなさんの周りにも、土は身近にあると思います。けれども、それを焼いたら、どうなるかを考えたことがある人は、ほとんどいないと思います。
「原土っちゅうのは、変化が大きいの。山から掘ったばっかのやつはアクがいっぱいあるのよ。そのまま焼くか1回精製した粘土を焼くか。電気窯で焼くか、ガス窯で焼くか、薪窯で焼くか。薪窯は土の表情がめちゃくちゃ変わるわけ。
高温で焼成して大丈夫なものは、やきものの原材料としての“胎土”になる。 でも、溶けちゃう土があるわけ。というか、いっぱいあるの。温度が上がって溶けたら、それは釉薬になる。溶けんやつがボディになる」
「土はね、限りない魅力があるんだ」
お話をお伺いしていると、土は焼成することによって、本当に大きく変化していくことが伝わってきます。全国の土を焼いてみて感じた、瀬戸の土の魅力とは、何なのでしょうか?
「瀬戸の土の魅力というと、なんでもあるっちゅうことだよね。瀬戸の土で備前風も、萩風もできるでしょ。本当になんでもやれるわけよ。なんでもやれるもんで、これといった特徴っていうのが、ないように思われちゃうんだ」
瀬戸の土は成形がしやすい土なので、備前風も荻風も、本家よりも自由度が増し、形に制限がかからないで、つくれるという。
「例えば、備前風のものを作ろうとすると、瀬戸の土なら、 温度がものすごい高温になっても、ボディとして保つわけ。本当に備前で採れた土だと、溶けちゃったり、へこんだりする」
75歳を過ぎてなお、作品づくりへの意欲は衰えない康雄先生。
「土はね、限りない魅力があるんだ」
その言葉には、幼い頃から土を向き合ってきた底なしの深みを感じました。
五代・鉄平さんの土との向き合い方
工房内の薪窯で焼成する様子。
一方、五代・鉄平さんは、康雄先生を師匠として、数々の築窯をともにし、原土を探しに行ったこともある。
その経験があるからこそ、原土からやきものをつくるという行為は、時代が進む中で、より難しさを感じているといいます。
「野生の土と戯れて、作品つくることが一番楽しいですよ。でも、窯元として、作家として仕事をしながら、土の研究に時間を作ることは、なかなか難しくて。
それに父の時代は、山を歩く人たちがいっぱいいたんですよね。山芋掘りに行ったりとか、いのししを追ったりする人たちが、ほしい粘土の層に当たったよとか教えてくれる訳です。
でも、今はそういう人たちも年食っちゃって、山の中に分けいってる人たちが今の世の中にあまりいないので、どうしても情報が少なくなってしまいますね」
古くて新しい織部の追求。
釉薬をかけずに作品と炭を一緒に入れて焼成する炭化焼成による土の表情を見せる器。
康雄先生が、かつてご自身で書かれた記事などを読んでいると、昔は当たり前のように、みなさんで先祖代々から伝わる山へ分け入り、原料を採りに行った。けれども、この時代、あたりを見回しても山へ分け入る人々は身近ではありません。
鉄平さんは、時代の移り変わりを感じながら、先を見据えて活動されています。
「僕は、陶磁器で作品が作れない時代がやってくることも想定しています。土ではなく、別の素材になってしまうかもしれない。失敗作ができた時には、心のなかで『ごめんなさい』と、土に謝っています。貴重な資源を使って、産業廃棄物を生み出してしまったということですから」
おふたりにお話を伺っていると、やきものは当たり前のように人生をかけて、追い求めていくもの。そんな大前提のもと、土と炎の芸術を突き詰めていることが、ひしひしと伝わってきました。
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さて、「土の声を聴く」の連載は、これで最後となります。
土の世界はいかがでしたでしょうか?
この先も、やきものが身近なものであり続けるために、「土」のことをすこし気に留めていただけたら、幸いです。
【土の声を聴く。連載紹介】
産業廃棄物にしない。土のリサイクルを考える。【土の声を聴く。「双寿園」編コラム】
「未来の人に土を残したい」【土の声を聴く。「瀬戸本業窯」編コラム】
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